東京大学Arch Linux普段使い部
まえがき
これは東京大学きらら同好会 Advent Calendar 2021の8日目の記事です。
もうきららでもなんでもねえ
要約
Arch Linuxを普段使いすることの喜びと悲しみについて。
まえがき:Linuxデスクトップであそぼう
みなさんは自分の道具にこだわりを持っていますか?
なんでもかまいません。自分を表現したり、自分の手足の延長となって活動を助けるもの。古典的な筆やペンに始まり、肉体に声や言葉。
言うまでもなく、オペレーティングシステムも道具です。あなたは自らの持つ道具を選ぶ権利を持っていますし、それを好きな形にする権利もまた然り。
かくいう私は今年2021年の7月、Arch Linuxをデスクトップマシンにインストールして普段使いを始めました。その数ヶ月前に Windows Subsystem for Linux (WSL)でUbuntuを触り始めたばかりでしたが、幸いにしてつまづくことなく、12月現在まで使い続けられています。
いまではデスクトップいじりが高じて、Vimと VSCodeのカラースキーム、urara.vimを作ってしまいました。紫をベースに、和風のようなパステルのような色を差したパレット。
𝙐𝙧𝙖𝙧𝙖...
うらら……?
「「「「うらら!」」」」
そう、うららといえば、うらら迷路帖。占いのある不思議な世界観、少女たちの純粋さと苦悩、それらを彩るキュートな絵柄が魅力のきらら作品です。
まんがタイムきらら - 作品紹介ページ - まんがタイムきららWeb
この記事で唯一のきららポイント
以下、この5ヶ月の悲喜を。
嬉しいこと
カスタマイズ性
言うまでもないでしょう。ソフトウェア構成や色・テーマ、すべていじり放題です。
一貫性
あなたがいま使っているソフトウェアは、どこからインストールしてきましたか?
あるものは提供元のウェブサイトから、また別のものは OS の公式ストアから、こっちは配布された zip アーカイブから……スマートフォンはともかく、Windows 端末であれば、さまざまな出所のソフトが混じり合っていることでしょう。(MacOS は詳しくないのですが、Homebrew を使わないなら似たようなものだと推察します)
一方、Arch Linux で生活すると、生活環境・開発環境を問わず、大半のツールを pacman パッケージマネージャからインストールすることになります。
パッケージマネージャ自体は多くの Linux ディストリビューションに存在するツールです。ソフトをインストールする際に必要要件を自動で整えてくれ、削除する際には関連ファイルを一掃し、立つ鳥跡を濁しません。これは管理体系の一貫性・完結性を意味し、メンテナンス性の向上につながります。
充実した手段
パッケージマネージャは便利ですが、そこからすべてのソフトウェアが導入できるわけではありません。実際どんな OS であれ、世の中にあるマイナーなソフトウェアは自分でビルドしなければならないのが現状です。これはとても骨が折れる作業です。
しかし Arch Linux を使っていると、「ちょっと新しいソフトウェアを導入してみよう」というときのハードルが低くなります。たとえば自分の環境では、新しくソフトウェアhoge
をビルドしてインストールしたくなったときのコマンドは
paru -S hoge
以上です。試したあとで消したいときも、
paru -Rs hoge
以上です。
これを可能にしているのが、Arch User Repository(AUR)の存在です。詳細は省きますが、簡単にいえばソフトウェアをビルドしてインストールする方法が記載された手順書が有志によって公開され、広く共有されているような状態です。この手順書があることで、上のようなコマンド一つでのインストールが可能になります。
また Arch Linux を特徴づけるものとして、充実したArch Wikiの存在は欠かせません。他のディストリビューションにも通用する一般則から、Arch 特有の事情まで、ここにも先人たちの知恵が集積されています。
このように、Arch Linux は結果ではなく方法の知を共有します。常に「やってみるのはあなた」。なんだか素敵じゃありませんか?
再生産
それほど頻繁には起こらないにせよ、コンピュータにトラブルはつきものです。たいていの場合、ソフトウェアがどうしようもなく壊れたマシンに対しては、OS の再インストールを試すことになります。もしあなたが Windows ユーザなら、これには少々覚悟が必要でしょう。なぜなら Windows の設定ファイルは様々な場所に散らばっていて、再インストールによって無残にも踏みにじられてしまうからです。
もちろん Linux であっても、対策を取らなければ同じ悲劇が起こります。ただ、その被害を軽減する方法もあります。それが dotfiles のバックアップです。
dotfiles については当会会員のふぁぼん先生の記事が詳しいです。肝心なのは、ユーザーの設定ファイルが~/
(ホームディレクトリ)や~/.config/
以下に集まっていることです。ここから重要なファイルを選んで、GitHub 上などマシンとは別の場所に保管しておくことで、ひとまずバックアップが取れます。これが dotfiles の要領です。
これだけでも十分なのですが、自分の場合、さらに「インストールしたパッケージのリスト」を加えています。具体的に言うと、pacman パッケージマネージャには、これまでにインストールされたソフトウェアパッケージの一覧を書き出す機能があります。
pacman -Qqen > pkglist.txt
この生成ファイルをあなたの dotfiles に加えておきましょう。
さてここでいま、あなたの目の前でマシンが爆発四散してしまったとします。もしあなたが無事で、十分なお金があれば、新しいマシンを手に入れることに問題はないでしょう。前述のバックアップがあるために、dotfiles をダウンロードして配置することで大半の設定は元に戻ります。では、消えたソフトウェアは?
実は pacman はパッケージリストを書き出すばかりではなく、書き出したリストからパッケージをインストールする機能も持っています。たとえばこんなふうに。
pacman -S --needed - < pkglist.txt
これでもうおわかりでしょう。dotfiles さえ残っていれば、別のマシンでも簡単に元通りの環境を再生することができるのです。なんてエレガント!
何かが身につく(?)
Arch Linux は自分でパーツを集めて環境を作るディストリビューションです。コマンドラインやシェルと否応なく向き合うことになるので、これらと多少は仲良くなれるかもしれません。少なくとも、なにかの環境構築をしようとして躓くことはあまりなくなります。
本当にどうでもいいことを言うと、私は弊学前期課程の文科生で一番 Linux に親しんでいる自信があります。本当にどうでもいいのですが。
つらいこと
実際のところ、私の用途ではそれほどつらい思いはしていません。
Microsoft
しばしば言われるのは、Linux 上では Office が使えないという話です。ただ、軽い文書程度ならば代替ソフトウェアでも頑張れます。LibreOffice あたりが有名でしょうか。.docx, .xlsx, .pptxを扱えるので、難点はまれにある体裁の崩れだけです。
それよりもつらいのは、同じマシンに Windows と Linux を同居させるときです。Windows はいくぶんわがままな OS で、アップデートの際に警告なくディスク上の別領域を食いつぶすことがあります。Linux はしばしばこの巻き添えになるのです。そのため、両者を同じディスク上にインストールすることは推奨されていません。
ちなみにこれに関しては、ディスクを物理的に分けることで解決できます。現に私のメインマシンはArch LinuxとWindows 11のデュアルブートです。
Adobe
Adobe製品もLinuxコミュニティにとって悩みの種です。エディタのBracket(開発終了)などはリリースしてくれていたようですが、やはりIllustratorやLightroomなど、市場をほぼ独占しているソフトウェアが Linux向けに提供されていないのは痛手でしょう。ただ、全ての人がデザインや組版、写真編集をする才能があるわけではありませんし、そうと割り切れば問題ないのかもしれません。私はこの手のことはからっきしダメですが、 代替ソフトのInkscapeで頑張ってロゴを作ったりしています。
娯楽・メディア
自分はSpotifyとYouTubeで音楽を聴き、dアニとアマプラでアニメと映画を見るくらいなので、事足りています。あと 何よりSteamが動きますから、Steam上で動くゲームはプレイできます。(EU4は買ってちょっと動かしました)
これからのこと
散々恩恵にあずかっておきながら、未だ Arch コミュニティに何も還元できていません。AUR パッケージのメンテナンスあたりからやっていきたいですね。